閨n
○八重の経歴
一、八重の父 七つ位で死ぬ
一、母の姉のところに養女にやられたが、和人の夫とけんかをして出て来る。
一、家をたてたい一心、
一、十六七の時、母を説いて学問――に努める。
一、バチェラーに貰わる。
一、馬から落ちたところが打身内攻し足が引つれ、苦しむ。
一、六年間床についたきり。
一、恢復して伝道、
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〔欄外に〕Leading passion for Utari.
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周囲の人
母 好人物 ドメスティック
弟 山雄
富次郎
バチェラー一族
姉 浪花節語り
K、Sの性格
○小さい時から花柳界に育ち男をだますのを手柄と思って居た、
○或若者、年上の女に愛され、激しい性的遊戯を行う、その女の代りに彼女選ばれ、ひけをとるのがいやさに[#「ひけをとるのがいやさに」に傍点]承知す。然しお話にならず、ことわる。女中にどう変って居るか判らない位置を見られるのがいやで、白むまで起きて居る。
○もっと小さいうち、始めて△のとき、茶屋の女将
「何度おしやはった?」
「三十六度」
「あほ云わんとき! 三十六度! そんなことがあるかいな」
「だっておかはん、あて勘定してたもん」
哀れ。考え違い。
舞姫などこのように、情慾も、好奇心もないのに、そういう目に会う。
のち、男にひかされ、ひどい生活を五年する――男、口入の一寸よいの。いつも、百や二百の金は財布にある、但人の金、女そんなこととは知らずにかかる。ちゃんと退引せず、男のところへ逃げ、少しずつ金を入れるというやり方。
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〔欄外に〕
○大して腕もなし。
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そのうちYが知る。
Yのところには金の都合のつくことがあるので、それも心だよりで逃げて来る。
Y 医者にかよわせ、歌沢をならわす。よい天分、然し芸で立つ気はない。男、弟子の一人ですいて居るらしいのを知りもちかけ、金を出させようとす。
男、心のことと思う。ソゴし、駄目。(宇治の花屋敷。男、女と山の中に入ってもよいという。女それを望むに非ず。悪たれて本音をはいてしまう)
友達であった女、神戸に鳥屋をして居、それを、男のために売りたい。相談して岡田をひっかけ買わす。失敗
又東京に来る。やけ。
わるい男(根津の中西)
Yのところに居るのに「何も其那とこに居いでもええやろ、若いのに」などそそのかした男。
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〔欄外に〕
○平気で男の悪口を云う 世話になって居る。
○いつも方便の恋
○その癖心のよい人と思ってつかみそこなう。
○岡田、本妻を出す。男の子一人不良 あとにせい[#「せい」に傍点]入る。
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×生存難
T
母、違う。
やさしくして表に出して叱らず
「本当に困るんですの」
と人に云う。
そういうことによって spoil され、活気のない、目的のない生存
二十三
結婚する適当な相手もなく。
Y、Y
賢い頭、見識
根気なさ ディレッタンティズム
I、A
小さい才能、打算
結婚難
恋愛の経験者
性慾の自覚と、胸《ハート》でつき当らないための結婚難
家庭生活に対する或考
○男は結婚迄自由で種々な生活を経験し、結婚と同時に落付こうとする。女はこれから生活をするという期待をもつ。
○男は外で仕事、うちで休、その波がある。
女にとって、家は、仕事、休みを用意するのだって仕事
○所有[#「所有」に傍点]するものの愛[#「愛」に傍線]が男にある。女には?
ビュビュ・ドゥ・モンパルナッスより
――売笑婦になじみもあったがね、彼女等が愉快そうにして居るのは、それ、子供が怖ろしさをかくすために喚き散らすだろう、あれと同じなのだよ。
男の荒い掌
男の荒い掌が彼女をなでる前、彼女はまだどこか野生で、きめもあらい。生毛もある。一度男の荒い掌が|そこ《彼女》にさわってなでると、彼女は丁度荒い男の掌という適度な紙やすりでこすられた象牙細工のように、濃やかに、滑らかに、デリカになる。野生であった女は、もっと野生な、力ある男の傍で、始めて自分の軟らかさ、軽さ、愛すべきものであることを自覚する。
女にする男
その紙やすりである男の荒い掌になでられすぎた女を御覧、
こすりすぎた象牙の表面同様につやがぬけ、筋立ち、かさかさして居る。
波多野秋をにくむ女の心理
自分も女、あれも女、
あれが男をひきつける
自分、やく。
やいたと云っては口惜しいから、道徳的にどうこういう。
顔で行かず、心で行こうという見えざるコケット
○「男は、女を愛す、と平気で云う。女だって同じと思うわ、それを何故私は男の人がすきよと云えないの、云っちゃあいけないのでしょう。」
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〔欄外に〕母となる性の特質、男にある浄きものへの憧れ、女に娼婦型母型
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二つあるように云うが、男の人の要求が大体その二つに別けられるので、女の方は、それと順応して、一方ずつの特性を強調するのではないの。
男は一人で二つ持つ。この傾向をね。
女は二つ持って居ても、一方をどちらか殺す――教養だの、必要だの――対手の男に応ずる本能からだの。
彼女(私)
はこういう女だ。
感じが敏く、又気が弱いところもあって、会う人、つき合う人にじき影響される。(一時ほんの一時。)ああ思い、こう考え、いろいろの憧れをもつ、しかし最後にはその中から、自分に本当にしっくりしたものを選び出し、選んだと信じたら、其をやり通す強情さをもって居る。
原あさを
仙台かどこかの豪家の娘
母一人、娘一人
歌をよむ。
ひどく小さい、掌にでものりそうな女
男なしに生きられぬ女
さみしさから、下らない男のところへでも写真などやる。よい人は――男は――その小ささ脆そうさなどで情慾をけされる。つよい――心も、或は慾情も――男が彼女を捕まえる。なかなか幸福にはなれず――朗々とした。石原とのいきさつも叙情的幸福。
×夏目漱石の墓
アドバンテージ
妻君
門下
故先生
Сижки《シズキ》 Суми《スミ》 二十五歳
一寸した小会社の娘
変りものを以て任ず。
東洋大学で同級であった男と同棲、子供、震災、京都の日活の用で、男京都に居るうち、友達にだまされて無一文、やどで、ひどいあつかい。
製畳機を作る店の月報を出すことを、宿やの主人とその家の主とできめ、月給二人の細君連で相談して四十五円、五十五円として十円はやどに入れる。
そのやどやを急に出され、月報の店や何かうろつき夜一時すぎ、不明の七条の一軒の家を四組でかりて居る家に住む。それから東京。
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〔欄外に〕
不良少女的一寸才があり、金のことにかけてはひどいことも平気、茶の間からパースをとってゆく。一向平気らしい。却ってこちらが変な心持になる。つまり、余り平気なので、盗られたことも何でもないような心持――所謂、罪悪などというものから遠いような心持。
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理屈っぽい母の会話
ね、一寸、おばあさんにきいてごらん、そんなこと云って泣いていいもんかどうか。
おや、この子は降りないよ、いくら降りろ降りろってっても降りないんだね。
○二人のしわい四十すぎの独身男と夫との散歩
浜中、A、銀座、
浜中、独身男らしく、洋品店などしきりにのぞく。
Aは食物のことばかり気にかけ、そして二人とも結局は何も買わず。
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〔欄外に〕ぽつぽつ雨、浜中、帽中をいたわって大さわぎをする。
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ラジオニュース
「松島事件」の○○氏は保釈出獄しました由、大阪電話。
From Annette & Sylvie
“Annette felt that, alone, she was incomplete; incomplete in mind, body and heart.”
“She had reached the time of life, when one can live no longer without a mate.”
○
「檀那様、表で赤ちゃん抱いてこっちのすること見て居るの、まあ、おかしーいったら」
細い妙に抑揚のある話しぷり。
「いたいでしょう、おじいさん、どうなすったんです」
「たくさん買っていらしったのね、おじいさん、五十銭?」
沢山しゃべり、おじいさんおじいさんという。がその女の声には何だか愛がとぼしくうるおいがとぼしく、半分子供あつかいにしておじいさんというようなところあり。親身の孫ではないらしい。孫の嫁、そういう気あり。
駿河台のニコライ大主教
○日本に五十五年も居て明治45年に死んだ。来たのはハコダテの領事館づき。その頃はこだては榎本武揚の事があった故か仙台の浪人が多く居た。一人、四国の漢学者の浪人アリ。攘夷論の熾なとき故一つ殺してやろう、その前に何というかきいてやれと会った。ニコライ、まだ来たて故日本語下手だが話して居るうちに迚も斬れず。空しくかえる。
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〔欄外に〕○丁度一八六〇年頃フナロードの始った頃。
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こんなことはない筈と、次に鯉口をくつろげてゆく。又駄目。
四度目に自白して、ニコライの唯一の助手となり生涯を倶し、ニコライはどの位――さんにたよって居たかしれぬ。二人で日本最初の伝道を始めた。
○ニコライの翻訳を手伝う人に、京都の中西ズク麿さんという男あり。大した学者。不具。手足ちんちくりんで頭ばっかり大きい。歩くに斯うやってアヒルのように歩く。その人がニコライの助手で「さあズクマロさん仕事をしましょう」と笑い乍らニコライ、ちょいと傍の椅子にかけさせてやる、そして自分側に坐り、ユダヤ、グリーク、ロシア聖書参考して聖書翻訳にとっかかり熱心に働く。
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〔欄外に〕
ニコライ大きい実に堂々たる人、ズク麿さんニコライの腰きりない。それがいつも仕事は一緒で、はなれず。
[#ニコライとズク麿の絵(fig4204_01.png)入る]
こんな形、しかし美しい心の結び方!
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○ニコライのいうことは皆心服した。
○いよいよ体がわるくなったとき聖ルカに入院。私死ぬか活きるか教えてくれ、死ぬ。では何日もつであろう。はっきりは分らぬが十日。ではこうしては居られぬ、十日あれば相当の仕事が出来る。
早速かえって、祈祷書の翻訳にとりかかった。又ズク麿さんをとなりにかけさせ、自分訳す、ズク麿さん歎文的日本語になおす。
十日働き、その翻訳もすみ、独り部屋でロシアへ報告書を書いた。終ってペンをおき傍のディ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ァンに横った。それきり。看護婦心配してやがて来たときにはもう死んで居た。平和に、立派に、壁の方に顔を向けて――聖画があった?
それは美しい午後か?
ズク麿さんとニコライの友情に美を感じ、その死をも美しいと思う。
天保さんの結婚
神学校、司教の息子、いつまで経っても卒業せず。シベリアへ通弁。青森の大金持の男、信者、娘一人、後とりの後見もして欲しいから学問があって、人物の出来た人、
そこで、結婚ブローカーがあって、
「それじゃいい人がありますっていうんですね、司教の息子それじゃ立派なもんだろうって云うんで先は承諾。親父は職業がなくって困って居るんだから一つ何でもというわけ。当人はすきな人もあってのり気せず。ことわるにも一遍まあ御覧なさいとブローカーが云うので行く。
後へ引けないことになって結婚、
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