られる。私のところへ来る少女団や少年団の子供もよく覚える。たった三箇条。
講釈師大谷内越山の訛
金色夜叉
「昔《むかす》の間貫一は死《すん》ですもうとる」
小酒井博士 ひどい肺病
妻君
かげで女中をしかりつけ、夫のところへ来ると、まるでわざとらしい微笑をはなさず。
夫 下手、
手伝の若い女の自惚
夢(Yの)
父が子供につき落されて、川(庭に引き入れた)に落つ。――勝太郎が庭木戸から入って来たら、他の子供たちがついて来たので、
「そんなところから来ちゃいけない」
と云うと、中の一人がついたらしい。
Y、あわてて、助けだしたら、まがうかたなきブリの切身になって居る。人工呼吸は、どうやるのだか分らないが、多分よく揉めばよいのだろうと、両手でもむ。
「しかし、切身じゃあ人工呼吸もきかないかもしれないな」
切身にだんだん弾力がついて来る。いつか元の父になり
「人工呼吸は利いてきたが、とても生きられない、もう死ぬ」
Y、大きな声で
「遺言! 遺言!」
「今度買った地面は皆で二十七円だ。阿母さんのものにするつもりだ、あとは皆書つけにしてあるから」
Y、母の土地が、そんなにやすくては憤るだろうと思う。やがて父死ぬ。お父さーんお父さーんと泣く。
自分の夢
坂をのぼった西洋風の上り口(コウヅか)多勢の一隊、自分、母、他の小さい人など、夜、くらくて足元のわからない、向うから汽車の来るのもよくわからないようなところを(停車場の構内)を横切って家にかえる。あとから来る筈のK、父上その他不明なかなか来ず。心配して待って居る。誰か轢かれたのではあるまいかと。
果して、一人の男来。自分、母入口に立って居、はっと思い、母にきかせず、私に云え何かあったのかときく。男合点をする。囁きで
「誰、しかれた?」
「Kさん」
「!」
自分体ギンとなる程の愕きと悲しみを感じた。
「助る?」
「こなごなです!」
Kについて、これまで見たのもアクシデンシャルな死であった。いやな心持なり。
もう一つ
どこだか判らず。何だか分らず
Aが、私にボムをなげつける、それが、黄色と赤の平たく丸い、菊の花のようなの。両手にもって電柱のところに居る。
ああぶつけられると思うがにげられず、なげたの、うまく体にはあたらず、破裂した一部が左の足にあたる。四週間かかる。二週間目頃ひどく膨れていたむと。いう。
[#ここから1字下げ]
〔欄外に〕
Aの、憎んだようなこわい顔、ありあり見えた。
[#ここで字下げ終わり]
工場の話
「柳は陰気くさいが、あれで陽のものだってね。昔何とかいう名高い絵かきが、幽霊の絵をかき明盲にしたりいろいろやって見たが一向凄くならない。そこで考えたにゃ、ものは何でも陰陽のつり合が大切だ。幽霊は陰のものだから陽のものを一つとり合わせて見ようてんで柳を描いたら、うまいこと行ったんだって。――男と女だって、生きてるときは男が陽で女が陰だが死ぬと変りますね、土左衛門ね、ほら、きっと男が下向きで女が上向きだろう。ありゃ何も男のキンタマが重くて下を向き、女のおしりが重くて上を向くんじゃあないさ、陽陰が代ってああなるんだとさ。
おじぎなんか、何故陰の形をするんだろう、そいつはわからない」
伊豆湯ヶ島
一九二五年十二月二十七日より
修善寺駅
茶屋の女(丸髷)出たら目の名、荷物のうばい合い、
犬、片目つぶれて創面になって居た、思わず自分、あっと云う。
Y、「この犬はいけない!」体が白いからなおいけず。自分、片手で顔を覆い動けず。創にさわるかと思うと手も出ず、又哀れで。
その犬の心持を思いやる、きっと人がこの頃自分をきらうことを悲しく、いぶかしく感じるであろうと。
二十八日、ひどく暖い。そとに出て見る、表山、山、杉木立、明るい錆金色の枯草山、そこに小さい紅い葉をつけたはじの木、裏山でいつも日の当らないところは、杉木立の下に一杯苔(杉ごけやぜにごけ)がついて居、蘭科植物や羊歯が青々といつも少しぬれて繁茂して居る。
山が多く、日光が当るあたらない、いろいろあるので、山にも変化がある。瑞巖寺で見た本阿彌の庭のように、一面芝山で何もなくところどころに、面白い巖の出たのもあり。
○南画的な勁い樹木(古い椎)多し、古※[#「木+解」、第3水準1−86−22]、榧、杉(松は尠し)◎南天、要、葉の幅の広い方の槇、サンゴ樹(赤い実がついて居て美し)それから年が経て樹の幹にある趣の出来てた やぶこうじの背高いの(千両)南天特に美し。
○川ふちの東屋、落ちて居た椎の実、
「椎の実 かやの実たべたので」
かやの実とはどんなものだろう
○変な五人づれの万歳
○男の尺八、それをききに来たもう一人のやはり気弱な男。
Yamada Kuniko の生活
信州人。ムラサキ時代、
中央新聞記者。
いろいろな男
生田と同居時代
同じ社の政治部の少し上の男と結婚、
その男代議士となる
女に対する淡白さ、彼女は良人を父とし、多勢若い男にとりかこまれ、良人子供をつれて客間を出、遊ばせにゆく。そういうもの分りのよさ。しかし我とわが身をせめる寂しさ。(此頃よくある一種の細君)
生田花世氏の言葉
「余り不幸だと一種の公明正大さが出来ますな、自分の利益にはならないでもね」
野上さんの或面
「情の人には嫌われても、知の人には尊敬される人ですね。面白い存在だと思います」――伊藤綾子の言葉。
伊藤綾子
二十五歳――今年六歳
独身、男性、恋愛の欠乏から生じる不安、生活のよりどころなさ。
菊池寛
「いくつです」
「二十五です」
「へえー、いつの間にそんなに年をとりました――神代種亮が妻君をなくし、子供は三人あるが――どうです、その人と結婚する気になりませんか」
「余りだ」と思う
芥川
「女は結婚して損はないんだがなあ」
生田 自分
「めぐり合わせで来るときは来る。間違ったことをするより待った方がよい」
綾子 それは分って居る。が、寂しい。弟が幼いのに、待[#「待」に「ママ」の注記]るのがまち遠しく、いきなり「―ちゃん」と云って泣いちまうことがある。子供の当惑。社会状態。==生活難、結婚難、等等。
淋しさの鋭い刀できられる心。
中年での疲労
若くて田舎から出、金になる原稿、名をなす為の原稿と三日四日徹夜しても平気で仕事をした女、二十七八になり、やっとこれからが楽しみというときにつかれが出、頭や手がしびれ仕事どころでない。「それは辛いわ、とても悲しいわね」「だから、余り無理をする人を見ると、私おやめなさいって云うの」
小田切益之助の娘
二十三、聖心女学院出、
頭のよい、派手ずき。
お茶のテーブルに花をまき、クリームを銀器で出すという風。
長尾半兵衛の息、ケイオーに七八年居、いつ卒業するかあてのない男と婚約。――自分が引まわせる気のよい男という条件で。長尾の地所が二十万円でうれたら結婚する。それまで娘早稲田に聴講生として通う。
○○された少年
美貌、十六
入院、身体不動
看護婦さわぐ。うるさく。なめる。すいつく。
一人、自分から勝手にひどいことをする。そこへ別のが入って来、黙って見て居たが、泣き出す。すっかり泣いてからだまって出てゆく。夜中又その(元の)女が来、二三度勝手をする。
発熱。
それから、まるで女がいやでたまらず。
今二十七八、やっと女がすきになれて来たという、その心持。
雪の札幌
樹木についた雪、すぐ頭の上まで、積雪で高まった道路の為来るアカシアの裸の、小さいとげのある枝。家々の煙突。
犬の引く小さい運搬用橇
石炭をつんでゆく馬橇
女のカクマキ姿
空、晴れてもあの六七月頃の美しさなく、煙突から出る煤で曇って居る。
雪をかきわけて狭くつけた道にぞろぞろ歩く人出。
冬ごもり
○自由でない水
○石炭のすすで足袋などすぐ黒くなる部屋
○雪がつもり、窓をふさいだ家の裏側
○まるで花のない部屋
老ミセス、バチェラー
○大きい猫目石のブローチ
○網レースに、赤くエナメルした小さい小鳥のブローチや花などをところどころにつけたビクトリア時代の流行《マトロン》のキャップ
○老猫のような髭
○蒼っぽい目
○指環のくいこんだ、皺のある太い節の高い指
○エプロン
○いつも編物
水色と藤紫の調和というこのみ。
“I am quite all right, so far I keep still.”
○八十一
ミス、バチェラー
○五十前後。
○やせた、鼻と顎がコーモリのように見える婦人、
○赤っぽい、波のない毛をかまわない結びようにして居る。毛糸あみの灰色の着物
○決して笑わず、形式的に一寸口をあける。
○永い会話を力のある声でせず、鼻声で不明瞭に一寸
「そう、私も出かけましょう」などという位。
不幸な old maid の典型。
八重の心持
○この人が来たので八重、家のことをちっとも仕ないでよいようになった。が、其は勿論よろこびではない。老人達が自分をたよりにしてくれないことの淋しさ。しかしいざとなれば、やっぱり彼等の世話をするのは、自分だという自信。
○健康になったので宗教の理解も明るくなり、決して人生を楽しむまいとするのが神の教ではない、と考えて来るようになった。八九年前とは大した変化。
○ウタリー(同胞)中学校をたてたいと基金を集めて居る。
「これまではよそからしてくれな|し《ス》ても、ウタリーが目醒めて居なかったから駄目でした。けれども、これは我共の人[#「我共の人」に傍点]が自分から求めて来たのでしたから、きっとどうにかなりますよ。決して死にはしませんよ」
「この間ミス、コースという方がいらっしゃいましてね、貴女が彼等のためにいろいろ努力なすっても無駄でしょうと仰云いましたの。だから私ね、私は無駄でもやらずには居られないというと其ならおやりなさるもよいが、効はありますまいとはっきり云いなさるんで|す《し》もの、私悲しくてね、泣いたわ」
「私自分が斯うやって居るだけだって何にか役に立つと思うよ、斯うして居るからこそ現状が保てて居るのだとも思う」
ミス、何とかいうアメリカのドクトル血液検査に来た由、八重案内しろと云わる。其那こといやだというのを、バチェラーは、道庁や佐藤博士の御厄介になって居るからことわれず、八重電報で呼ばれ、かえって入るともうその人が来て居る。
目的や何か伺わないうちはいや
通弁だけはするが人が出て来るかどうか判らない。
然し行くと、日雇一円五十銭ずつ出されるので、ひどいのがうんと来る。
ミス某きたながり
「世界中で一番弱い民族だ」と云う。八重
「貴女、私たちの人の愧しいところを御覧になったのだから、必要以外のことは黙って居て下さいね」
「No, I can't 漠大な費用を出して貰って来て居るのだから、私の見たところ、皆云わずには居られません」
「本当に愧しい恥をさらしに行ったのですよ」
八重、バザーの為に、一年一生懸命にいろいろの沢山の縫をして、徳川などの手でバザーをする。その時イブリ アイヌが上京
「私のお友達がね、わざと、『あすこに居るのがアイヌですか』ときいたら
『ええあれが北海道で、木の根や草の根を掘ってたべて居るアイヌという気の毒な人たちです』と云ったんですって。だから、私行かないでよかったよ」
バチェラーの仕事が充分でなく名に実がそわないのを八重は、親身で遺憾に思って居る。
[#ここから1字下げ]
〔欄外に〕
八重のものの考え方
一、アイヌの女! とさげすまれまい努力
一、高貴な人というものに対する原始的な崇敬
一、熱情的愛ウタリー
[#ここで字下げ終わ
前へ
次へ
全4ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング