蜷Xにいい家が出来、百五十円ずつ仕送りして、大学か何かへ行って居るんですが、一向それで満足もして居ないんですな、
 一つ心配なことがある、
 何だ
 もうじき試験になるんだが、それだけはどうしても通らなくちゃならない、困った困った。
 明日の口のことを心配して居た人が一朝境遇が変ると、すべての心配は試験だけになった。面白いもんですなあ、人生は……」
 山内氏このように話す、妻君傍で「又あんな話、苅田さん御退屈でしょう」と写真帖など出し、家鴨の居るの 羊の居るの 子供だましのように見せる、面白い。細君にそのような話の面白みわからず。
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〔欄外に〕
苅田さん「人間は、どんなことのためにでも生きるようになるものだ」と感じた由。
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     凍った花

 部屋 南向、八つ手のかげ北極、机の上に桜草をさして置いた。四五日行かず。或日見たら、すっかり凍って氷の中に入れた桜草が凋れもせず。一種の驚きと美とを感ず。珍しい経験。

     ○女子大学生 ラバ lover さん

 私立大学のハイカラ生 ※[#リットル、1−3−63]《エル》サン
 摩耶山はエルさんをつれてのぼるところだ、と思いましたよ。
 智識階級の二十―三十代  リーベ
              すきな人

     倉知の俊が農園でつかう

 ヤ、こいつはデカ・メロンだ、でかいメロンだ。

     ○ケイオーの学生

「あいつ赤電[#「赤電」に傍点]のくせに悠々してるね」
 アナーキスト
「発禁に会いますから」

     フイリッポフ

 ○フイリッポフ 二十八 白っぱげたようなロシア人
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〔欄外に〕
 若いのに
 ○子供ずき
 ○人と自分との生活の差別をせぬ生活
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 ○妻エレーナ 二十一二
 ○アメリカへ行って居た仕立やの妻 四十
               良人 五十九
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〔欄外に〕
 フイリッポフの役所、女の人が来ましたよ、出て見たら、二人ダーマ 一人がローゼン男夫人(活動を写した女)一人が仕立や、天現寺に居る。
 ○ローゼン迚もおしゃべり――長舌《ドリンヌイ・ヤズイク》というアダ名
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 金をふところに抱いてねる、この男、金がたのみで、夫婦の会計は別。(ころされると思い、子供に何でも先に試めさせる。)妻、亭主にかした金(六〇〇円)をかえしてくれなくてはいやとケンカをし、フイリッポフのところに逃げて居る。フイリッポフが夫のところへ行ったら良人はかえるものと思って居た(いつものケンカと思った)
 女いや(高等掛が来て、日本の女なんか決して其那ことはない)

 ラシャ売り、それがレッシャウリときこえた。Yに。
 日本の女から片仮名の手紙が来る。それをフイリッポフによんで貰いに持って来る。女と見れば、しっかりいつまでも手を握ったりして居る。きたない髭面、目くぼみの背低。
 フイリッポフ、ドンジュアンと呼ぶ。

 前に、シベリアで知り合った日本人の女房でロシア人、亭主より先にかえって来た、女の友達でフーシェ嬢という女の拳闘家あり、そんな男つまらぬと云って、同じ仲間のボクサーをとりもつ。二人出来る。亭主がかえって来たので東京に来たが男から手紙が来てバレル、女身持ち。子を産む。その子と女、フイリッポフのところへあずける。女、男によび出されては子供をフイリッポフにあずけて出てゆく。フイリッポフ貧しい中から子供に粉ミルクをかってのませた。
「今ぐらいに暮して居れば、その子もらって育てたが、貧乏でしたから駄目だった」

 ○二階借り居る家は建築業、下にいつも婆と小さい娘六つ位のこまっちゃくれ「分りましたか、分りましたか」大人の言葉をつかう。赤坂の色街のところのそういう人達の心持とロシア人の生活との錯綜。
 ○宣教師 独逸人 赤ら顔の髪なし。
 友人の宝石を売ルタメに呼んだ。日露懇談会で知ったとき、フイリッポフに信仰談をした。フイリッポフ信仰よりパンが欲しい。ダイアモンド八〇〇円に売ル
(日本語が出来ないから表現されないが、宗教にはよい理解をもって居る。)その男(ロシア語でもわかりません)
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〔欄外に〕
 ロシア人の気違いになった細君を病院へ入れるためにフイリッポフ手紙を書く。
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底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年5月30日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
初出:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年5月30日初版発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2007年8月13日作成
青空文庫作成ファイル:
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