になった。八九年前とは大した変化。
 ○ウタリー(同胞)中学校をたてたいと基金を集めて居る。
「これまではよそからしてくれな|し《ス》ても、ウタリーが目醒めて居なかったから駄目でした。けれども、これは我共の人[#「我共の人」に傍点]が自分から求めて来たのでしたから、きっとどうにかなりますよ。決して死にはしませんよ」
「この間ミス、コースという方がいらっしゃいましてね、貴女が彼等のためにいろいろ努力なすっても無駄でしょうと仰云いましたの。だから私ね、私は無駄でもやらずには居られないというと其ならおやりなさるもよいが、効はありますまいとはっきり云いなさるんで|す《し》もの、私悲しくてね、泣いたわ」
「私自分が斯うやって居るだけだって何にか役に立つと思うよ、斯うして居るからこそ現状が保てて居るのだとも思う」
 ミス、何とかいうアメリカのドクトル血液検査に来た由、八重案内しろと云わる。其那こといやだというのを、バチェラーは、道庁や佐藤博士の御厄介になって居るからことわれず、八重電報で呼ばれ、かえって入るともうその人が来て居る。
 目的や何か伺わないうちはいや
 通弁だけはするが人が出て来るかどうか判らない。
 然し行くと、日雇一円五十銭ずつ出されるので、ひどいのがうんと来る。
 ミス某きたながり
「世界中で一番弱い民族だ」と云う。八重
「貴女、私たちの人の愧しいところを御覧になったのだから、必要以外のことは黙って居て下さいね」
「No, I can't 漠大な費用を出して貰って来て居るのだから、私の見たところ、皆云わずには居られません」
「本当に愧しい恥をさらしに行ったのですよ」

 八重、バザーの為に、一年一生懸命にいろいろの沢山の縫をして、徳川などの手でバザーをする。その時イブリ アイヌが上京
「私のお友達がね、わざと、『あすこに居るのがアイヌですか』ときいたら
『ええあれが北海道で、木の根や草の根を掘ってたべて居るアイヌという気の毒な人たちです』と云ったんですって。だから、私行かないでよかったよ」
 バチェラーの仕事が充分でなく名に実がそわないのを八重は、親身で遺憾に思って居る。
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〔欄外に〕
 八重のものの考え方
 一、アイヌの女! とさげすまれまい努力
 一、高貴な人というものに対する原始的な崇敬
 一、熱情的愛ウタリー
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