ことに彼にはその時まだディプロマがなかった。――
独逸《ドイツ》の女子共産党員――がСССР女性生活について書いたものが 文芸戦線にのって居た。*月号第○頁
疑問なき簡明な文章だが実際上にはもう少し説明のいる事実だ。純粋に現在及未来の衛生問題として。
ターニャ・イワノヴナはレーニングラードのマリンスキー劇場の第一舞踊手と結婚した。美男の良人につかまって数番の初等トウダンスと両脚を床の上で一直線に展くことをおそわった時 ターニャ・イワノヴナは自分の姙娠したことを知った。踊りての良人は不機嫌に
「僕あ赤坊なんぞいらないよ」
と云った。ターニャ・イワノヴナは 人工流産の手術を受けた。二十五留払って、三日病院の人工流産部に横わって居る筈であった。三日は三月になった。四ヵ月目に、二十二歳のターニャ・イワノヴナが髪の毛と食慾と永久に健康な子宮を失って家に帰った時、彼女は更に一つのものを自分が失ったのを知った。彼女の良人はもうタマーラ・イワノヴナの良人ではなかった。マリンスキーの舞踊手でどこか他の強靭な子宮の配偶者であった。――
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――こんな例、人工
前へ
次へ
全25ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング