文学が真面目にとりあげられ、民論によってはげまされなければならないと思います。今日これほど問題の多い子供の生活に語りかけてゆく健全な文学がこんなに少いということはおどろくべきことであるし、日本の民主化の道程で歴史的な場面に立っている農民のこの複雑な現実が、見るべき一つの作品にもまとめられなかった片手落は、本年度においてとりかえされなければならないと思います。
戦時中農民を主題として書いた作家が戦争遂行のための農村収奪の方向に協力するばかりで、真に農村の人々の心にはいって作品を書かなかったという悲劇を、本年はまったく新しい人々のペンによって、血によごれていない人々のペンによって語られなければならないと思います。
ところがこのようなさまざまの期待と希望があるにもかかわらず、用紙の問題はどうでしょう。雑誌・書籍の生産費の暴騰はどうでしょう。そして今の電力割当で、どれほどの本が読めるでしょう。人民の所得は戦前の百倍と査定している政府が、百二十六倍の税額を払わせる時、私たちの文化費はどこに残るでしょう。文化と文学の発展は、社会の生産や権力の性質とこんなにも切りはなせないものだということを、本
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