が当選したことは、その作家一人の問題ではなくて、民論が一方で坂口安吾氏の文学を繁昌させながらも他の一方ではやはり真面目に今日の社会の矛盾について考えており、その解決をもとめており、人民を幸福にする可能をもつ民主主義を欲しているという事実を雄弁に語るものでした。
さて大掴みに注目されるこれらの三つの現象は、本年度にどう展開されてゆくでしょうか。
これまでは文学の問題は文学の枠の中からだけとやかくいわれました。しかしこの段階は誰の目にもはっきり過去のものとしてうつっていると思います。なぜなら以上の三つの問題のどの一つをとってみても、ただ小説の問題とか詩の問題とかにかぎってその狭い地盤の上で発生している現象ではありません。どれもこれも、日本の社会が全体として今日当面しているいろいろの事情から湧いている現象の一つとしての文学現象であるといえます。
前年度に見られた現象がこういう本質のものであるとするならば、一九四八年度における文学の諸問題は文学という分野の特殊な性質をたもちながらも、たしかに一九四八年度の日本の民主化の歴史がどうすすむかという事情と一致した歩調で、いくらか社会現象よりおく
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