なしで彼らの資本主義生産が一日でもやって行けるか? 彼等が半封建的な資本主義的・地主的権力である限り、プロレタリアはプロレタリアであることをやめない。闘争をやめぬ。資本主義の矛盾はここにも現れて、数人の前衛をうばったことは、逆にこれの何倍かの活動家たちを生み出す結果となっているのだ。
 洋々とした確信が胸にみち、自分は思わず立ったまま伸びをし、空に向いて笑った。声を出さず、ひろく唇をほころばして順々に笑った。
 午後二時ごろになると、特高係が留置場へやって来てわたしを出し、二階の一室へつれ込んだ。墨汁だの帳簿だのの、のっかっていたテーブルの向う側に、黒い背広を着、顔の道具だてがみんな真中に向ってすり詰ったような表情の警視庁の特高が腰かけている。
 帝大の学生の東というのを知っているだろう。その学生は青年同盟の出版物へわたしの原稿を貰っているのだといった。
「そんな学生は知らない。またそんな原稿もきいたこともない」
「そんなことはないでしょう。現にあなたの家へ行ってつかまっているんですよ」
 目を凝《じっ》と据え、癖のある嘲弄的な口元で、しつこく繰返した。押し問答の後、その特高は書類鞄の
前へ 次へ
全46ページ中43ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング