『働く婦人』の問題もある。……」
 黙っていると、中川は、
「どっちみち大したことはないさ。二三年行って来りゃいいんだ。――気の毒だが君もこれからは不安な生活をしなければならないね」
 自分の顔から目をはなさずそういって煙草の煙を何度にも口からはいた。
 わたしは自分が日本プロレタリア文化連盟の関係によって引致されたものであること、そして、官憲は、他の文化団体の同志たちに対してと同様に、合法的な日本プロレタリア文化連盟を潰し、合法的な階級的文化活動者としての活動を妨害するための、陋劣《ろうれつ》な作業を、私に向っても開始したことを理解したのであった。
 中川は宮本の行先について訊いた。私が何を知っていよう。中川は私の所持品を調べたのち、
「さ、留置場へ行こう」
 先に立って高等室を出、警察の正面玄関横から登る階段とは違う狭いガタガタした裏階段を下り、刑事室の前に出て、右手つき当りの鉄格子入りのくもり硝子の戸をコツコツと叩いた。戸の高いところにその部分だけ素どおしのガラスで小さい円い「覗き」がついている。一対の目玉がそこからこっちを見、すぐ掛金をはずした。中川は開けた戸の外に立っている。
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