察の近くだし、「ここじゃあないよ。大通りから右へあっちを廻ってと云ったろう?」と云うことだった。今度は番傘をさして雪の中を案内の人について、諏訪神社近くの大きい料理屋へ行った。廊下をいく曲りかしたところにドアつきの小部屋がある。西洋風に壁で一方だけに窓がひらき、大炬燵がきってある。そういう部屋に落付くと、直ぐ○○君がやって来て「ここは私の同情者《シンパ》でしてね、重宝ですよ」と笑った。
サークルの女工さん達は七八人だが職場の都合で夜七時頃にしか集れないという話であった。寄宿にいる人は門限が九時までで、僅かしかおれないから残念がっているそうだ。大体下諏訪の製糸工場は大きいのが少く、女工さんも県内の出身が多く、通勤も相当あるので、文学サークルなども作れる。しかし文学サークルなどを企業の内部へ――工場寄宿舎の内へどんどん拡大してゆくことは相当困難である。どうしても、文学新聞や「働く婦人」を中心として、進歩的な生活気分をもっている女工さんは、工場の外で集り、企業のそとでサークルを持つ傾向がある。しかし、○○製糸工場を中心とする下諏訪のサークルに属する女工さんたちは活溌で、この前の作家同盟講演
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