上、結婚生活が従来の型では行われない場合が多いらしい。プロレタリア文化活動の分野でも、運動が高まるにつれ、家庭生活も当然変化して来て、だんだん夫婦がいつも必ず一つ屋根の下に暮すことは出来ない場合がふえそうだという話が出た。
「一緒に暮せる間、万々遺憾ないように大いに積極的に暮すべきだわね」
「そんなことになると、作家同盟の婦人作家が片っ端から『愛情の問題』の傑作ばかり書いてやりきれなくなっちゃうかもしれないね」
これには思わずみんな笑い出し、云った当人の窪川いね子も床の上に座ったなりハアハアと笑った。笑いながら、この問題はみんなの心につよく刻まれたのである。
二
大会が迫っていること。「働く婦人」の締切期日が来ていること。「婦人之友」に連載していた小説を書かねばならないこと。それ等でわたしは毎日忙しい。宮本もさらにいそがしく、一つの家におりながら、廊下で顔を合わせたりすると、
「どう?」
「どうしたい」
という風な言葉を交した。けやきの木の下にある二階家は活動的な空気でいっぱいである。
四月三日の晩、小林多喜二が来た。そして、中野重治が戸塚署へ連行されたこと
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