るんですもの……とても骨を折っちゃった」
「会社の方はどのくらい休めるの?」
「今は欠勤だけれども、どうせもう駄目だわ」
「そんなに遊んだことがあるのかしら……」
第一次世界戦争が終り、日本に気違い景気があった頃、彼女の父親は丁度妻を失った時であった。気違い景気のいく分のおこぼれにあずかり、彼も小市民らしい遊蕩をやった。相当ひどくやって、九年の恐慌とともに、その放埒は終結したが、今その不運な成果が現れたという訳なのであった。
「ね、だからマルキシズムは嘘じゃない! こんなことにまでもちゃんと日本資本主義発展と崩壊の過程が現れているんだもの」
わたしがひどく力をこめて素朴に云ったので、いね子も笑い出し、
「全くね!」
と雄大な腹の上の紐を結びなおした。
「わるいことに悪いことが重るって云うけれど、ちゃんとそれだけの客観的或は歴史的理由があるんだものね」
「そうさ! 窪川鶴次郎がもってゆかれたこと、いね子が一人で赤坊を生まなければならないこと、大森で気が変になったこと、みんな一連の問題で根もとはたった一つなんだもの……。がんばろうよ、ね」
組合の仕事をしている人との間では、仕事の関係
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