ことが感じられた。
わたしたちはアンパンをたべながら、婦人委員会の報告、議案の内容について打合わせをした。婦人委員会の一般的任務、組織活動、創作活動について報告し、議案としては、満蒙における日本帝国主義侵略戦争以来激化したファッシズム、社会ファッシズム文化・文学に対する、婦人の独自的抗争の問題、植民地被圧迫民族婦人に向っての積極的働きかけの問題などが課題とされた。
手帳へそれらを箇条書きにしていると、きっと口を結ぶようにしてそれを見ていた窪川いね子が、急に、
「ねえ、私もう、いやんなっちゃった」と云った。「親父がどうも気が変になったらしいのよ」
彼女の父親は大森に住んで電燈会社だかに勤めていた。わたしにはすぐ彼女の心持がわかった。夫は敵に奪われ、出産を目前にひかえている彼女が、そのことにも責任を負ってやらなければならぬ立場にあるのだった。
「……中気なの?」
「早発性痴呆とかいうんじゃないかしら……私の風邪もそのおかげなのよ。帝大病院へつれて行ったんだけれど、電車を降りてずっと歩き出すとそのまんまどこまででも真直に行っちまうんですもの。――傘をひろげると、すぼめることが分らなくな
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