てい今いる以上の人数を収容することはできそうにもなかったからなのである。
 湖の彼方岸から石を持って来て建てたというこの家は、ちょうど村の中頃に在る。
 ニューヨーク附近の避暑地として、ちょうど日本の鎌倉近傍のような位置に在るこのG湖に沿うて、長く延びたカナダまでの州道《ステート・ロード》がある、その油を敷いた心持よい大道と、風が吹く毎に、内海のような漣《さざなみ》を揚げる湖とに挾まれて、百年経った石造の小家が立っているのである。
 道に面した部屋部屋には、すぐ眼の前に聳え立った古い楡《エルム》の並木越しに、緑玉のような日光が差しこむ。湖に向った部屋部屋には木々のさわめきと、波の光りと、水浴をする人々の歓声が水煙を立てて、疾走する白いヨットの泡沫《ほうまつ》に乗って訪れて来る――。その三階に、私の小さい巣のような勉強部屋があるのである。
 もう二ヵ月以上滞留している私共には、下の二階が屋根庇の反射がないために自分達の部屋よりも涼しいということも、同時に少し光線が不充分だということをも知っている。従って、その四間ぐらいほかないところに、親子四人以上の人が住めるということは、普通の考えかた
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