オイオイ泣いてしまったらなあと思った。
睡眠不足と極度な緊張の弛《ゆる》む暇のない自分の心と顔は、尖って青醒めた色をしながら、殆ど常軌《じょうき》を逸したような過敏さと、正反対の落着きの両面を持っていたのである。
もうどんなにしても、彼の生命に近づきつつある最後の一時を否定できないにも拘らず、彼の体躯の偉大であることが、愛する者達の、心に気休めに似た一種の希望、といおうより一つの恐ろしい考えから遁れるだけ遁れようとする反動的な迷信を起させているらしかった。
量り知れない母の熾烈《しれつ》な愛情は、今はもう彼が、自分の眼で見えないところ、触れないところ、声の聞えないところへ連れて行かれることが厭なのである。こわいのである。
長い間、何でもなく彼と話し笑い、彼の強力で助けられていたのを、そしてまたそれが永劫《えいごう》不変のように思われていたのを急に一生彼から離されなければならないのを考えただけでも堪らないのである。
そこはもう、理窟の領分ではない。
「どうにかして救われまいか、どうかしたはずみにフッと正気に戻るまいだろうか」と泣く母に対して私は云うべき一言をも持たない。
私が
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