に現れた婦人の地位を高める条件としては、ちっとも蓄積されていない。
 例えば今日ではもう昔の物語になってしまった琉球のあの美しい絣織物にしても染めの技術にしても今はみんな壊れてしまってなくなったが、あれも土地の女の人の労作であった。ジャワ更紗など高い価値をもっていて大変美しい芸術的な香りをもっているものだが、あの更紗の製作者は誰だろう。ジャワの婦人たちである。写真でみると、極めて原始的な方法で染め、織っている。彼女たちの方法は幾百年来の方法である。
 日本の軍人が、トランクや荷物の底に、価でない価で「買った」ジャワ更紗を日本に流行させたことを、わたしたちは決して忘れないだろうと思う。
 インド更紗の美しさも世界にしられている。この立派な技術をもち美しい芸術的な生産をするインド婦人の生活はどうだろう。回教徒とバラモン教徒との対立は、一人一人の婦人の運命に重大に関係している状態である。
 李白が「万戸砧をうつ声」と詩にうたったその日夜の砧は、宋[#「宋」はママ]国のどんな男がうっただろう。それはみんな婦人たちのうつ砧の音であって、数千年の間、人類の女性は、誰がために、何を、どういう事情のも
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