ション地獄の下でどうやりくりされているか見えるようなおしゃれもある。
 ここで、誰のために何を縫うのかという質問は、もっと身に迫って、私たちは、どういうものを自分で着られるような社会にしようとしているのかということが問題になってくる。近代の資本主義の社会で裁縫は一つの職業になった。アメリカなどでも労働者の比率から見ると被服工場に働いている婦人労働者が第一位を占めている。アメリカの能率のよい生産行程では、一つの型紙でもって電気鋏で一度に数百枚の切れ地を切って電気ミシンで縫う。
 特に裁縫ではいろいろ細工がある。衣料関係の労働は、こういう大量の既製品製作ばかりではない。金モール細工をする人、刺繍をする人、さけた布地をつぐ専門家、大体それは女の仕事であった。或は、立って働くには不便な不具の男の仕事とされた。アンデルセンの「絵のない絵本」の一番初めの話は、高い屋根裏の部屋で朝から晩までモール刺繍をして暮している娘の窓に月が毎晩訪れて、お話をして聴かせるという話だったと思う。都会の屋根うらのそういうふうな娘の人生を、アンデルセンは悲しい同情をもって理解した。
 またこんどの大戦前に堀口大学氏の訳
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