下部太郎は同情を以て推察した。彼は、広い交際の網目を彼方此方と注意した。そして、彼が牛津《オックスフォード》留学時代、その父親と親しくした今度の青年を見出したのであった。
高畠子爵は、青年が有望な外務省書記官であるのを喜んだ。夫人は、爵位のない先方が大槻伯爵の親戚であるので安心した。
日下部太郎は今晩、その礼心として内輪の招待を受けたのであった。
書斎に行くと、日下部は待っていた小間使の手をかりず、気軽に自分で椅子を煖炉の前に持ち出した。
「さあ、どうぞおこのみの席におつき下さい。御婦人がたは火のお近くに」
「いや君、それはいけない」
子爵が真面目くさって日下部を遮った。
「我々は細君方より少くも五つや六つは年上だ。年長者の特権というものは、煖炉の近くで最もいい場所を占めるにある。どれ――では失礼」
子爵は、皆を笑わせながら、どっかり安楽椅子に納まった。珈琲《コーヒー》とキュラソオとが運ばれた。日下部太郎は、婦人達に向って二言三言毒のない冗談を云い、子爵と愉快そうに酒の品評を始めた。
二
此方では、子爵夫人とみや子とが並んで長椅子にかけていた。
端正な
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