適ったと推察する。昨日もまたわざわざ御入来の由を妻から承った。先般来晨子のことでは一方ならぬ御配慮を煩し、何かと心がけていたところ、図らずあの皿がお目に止ったようだ。自分等夫妻の感謝の微意を表すには、この皿を貴下の優秀な蒐集の一部に加えるのが最も適当だと思われる。何卒飾棚の一隅に席を与えてくれるようにというのであった。
 みや子は、持っていた筆の軸で無意識に額の隅を掻いた。彼女は俄に気の抜けた風で、
「お使は待っているのかえ?」
と物懶《ものう》げに訊いた。
「はい」
「ではね、旦那様に失礼でございますが一寸って――
 廊下にどかどか跫音を立てて日下部が入って来た。
「何だい?」
「今こんなものが参りましたよ。何とか云ってあげなければいけますまい」
「どれ」
 彼は気のせく中腰のまま子爵の手紙をとりあげた。読むうちに、彼の顔はぱっと火のように赧くなった。彼は、どっさり片膝をつき、いそいで包を解き、箱を開け、つめものの綿をとりのけた。中には白羽二重の布につつまれ、あれ程心を労させたグーッビョー。彼ばかりが贋と知るジョルジョの円皿が、紅玉釉薬の艶も静に入っているではないか。日下部太郎は皿を
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