たのも悉く偶然です。見るとどうもただものでない。下等な婆さんが戸口の腰架で豆か何かむいているのに出させて見ると、全く驚きました。いい塩梅に巴里を出る少し前或る有名な蒐集家の所蔵品を見ていたので大体の見当はついたわけなのです。が、さて価を訊く段になるとね。ハハハ」
高畠子爵は、思い出しても愉快そうに笑いながら、彼として稀しい多弁で話しつづけた。
「あの心持は今考えてもおかしい。出さきだから持ち合わせはすっかりはたいても高が知れているのですからな。実にこわごわ訊いた訳です」
「いやその心持はよくわかります。欲しいは欲しいが、さて、というところ。然しあれも一寸いいものです、ふうむ、それで?」
日下部太郎は、先刻から熱心に皿を見なおしながら合槌を打った。
「訊いて却って反対の意味に驚いた。婆さんは私の風体を頻りに見上げ見下しして余程吹いた積りらしいのだが、それがまるで嘘のような価なのです。私は単位の違いかと思って念を押す。婆さんは高価すぎるというのかと思ったと見え、まるで私には通じない南方訛りで夢中に説明するのである。たった一つの店の飾だとか、美しい、珍らしい美術品という位の単語が私にわか
前へ
次へ
全34ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング