こするようなことをした。
「アウ、アアア」
 そして、発条にまた何かあけるようにする。
「何だろ、清ちゃん何がいるのかね」
「――母さん! 油、髪の油だわ」
 ぬいは、小さい椿油の壜を出して来た。清二は、その壜を見ると、嬉しそうにうんうんをして手を出した。が直ぐまた別のものを探しだした。ぬいは、一生懸命になって、彼のいるものが、紙切れなのを当てた。清二は機械のところどころに少しずつ油をさして、やっと時計が動くようにした。
「ああ、これでいい! ありがとうござりました。まあ一服しておくれ」
 再び、古風な柱時計が燻《くす》ぶった天井の下で、活溌にチクタクいいだした。ぬいは、溜息をついた。彼女は、母親が、沢山何か礼して、清二の労をねぎらってやってくれればよいと思って凝《じ》っと待っていた。が、母親は、柱にかかった時計を度々見て満足を示すだけで、ひどく三人は手持無沙汰だ。彼女が、思いきって炉の火箸をとりあげようとしたときであった。外を見たり煙草をすったりしていた清二が、ふと、手を延して片方火箸をとった。彼は、
「ア」と、ぬいに合図し、灰の上に書き始めた。
「アシタ、町デ、ホントノ、キカイ油ヲ
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