か。
眠りなおして八時過に起ても、私は何となく頭が重苦しいのを感じた。熟睡して醒めた後誰でも感じる、暖かに神経の末端まで充実した心持。それがなく、何だか詰らない、疲労の後味とでも云うようなものが、こびりついて居るのである。
新奇なこともない新聞を読み乍ら食事を終った処へ或書店から人が見えた。
髪をちょっと丸めたままの姿で、客間に行って見ると髪を長くのばし、張った肩に銘仙の羽織を着た青年が後を見せて立って居る。
初対面の挨拶をし、自分は
「どうぞおかけ下さいまし」
と上座に当る椅子を進めた。
はあ、と云って立って居るのでもう一度同じ言葉を繰返すと、その青年は、ひどく心得た調子で
「まあどうぞ其方へおかけ下さい」
と、まるで自分が主人ででもあるような口調で私に、彼にすすめる椅子を進めた。
「荷物がありますから」
ちらりと小さい風呂敷包みを見、自分は何だか滑稽な、苦笑したい心持で席についた。
用向と云うのは、その書店で編輯して居る雑誌のことにつき、或話をききたいと云うのであった。用談がすむと、二三の人の噂をし、淡青い色の巻煙草の箱を出した。
家族に喫煙する者がないので、道具
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