明をした。
「相談しなかったのはあやまるよ。然し、本当に五月蠅い気の揉める婆《ばば》じゃないか」
 彼は、さっきれんが一年にたった一度のクリスマスと云った口調を、その節まで思い出してむっとした。
「僕やお前が若いと思ってちび扱いにするんだ。代りなんかいくらでもあるよ。――僕だって先刻まで其那気はなかったんだが――」
 彼女は寝台の端に腰をかけ、憤ったような揶揄《からか》うような眼付で、意地わるくじろじろ良人の顔を視た。
「仰云る気がないのに、言葉が勝手にとび出したの?」
「いつもいつも思っていたことが、はずみでつい出て仕舞ったのさ。僕は全く辛棒していたんだよ。ひとの顔さえ見ると何より先にきょとついて、はい、はいとやられると――参るよ」
 さほ子も段々笑い出した。そして、良人の意見に賛成して散々気の毒な老女のぽんち姿を描いて笑い興じた。けれども、笑うだけ笑って仕舞うと、彼女は、足をぶらぶら振るのもやめ困った顔で沈んで仕舞った。
「もうじき大晦日だのにね。――どうするおつもり?」
 彼女は、歎息まじりに訴えた。
「今其那に女中なんかないのよ。貴方男だから好きになすったって如何かなるには違い
前へ 次へ
全22ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング