を出して見せた。彼女は莞爾《にっこり》ともしないで眼を通した。彼が新聞に出そうと思った広告の下書きであった。
『女中雇入れたし。家族二人。余暇有。十八歳以上。給。面談。』
広告は幸応えられた。
二日経って広告が掲載されると其朝、さほ子は、間誤付をかくした真面目な顔付で、一人の娘を食事部屋に案内した。
広告を見て来た其娘は、二十《はたち》前後で、細そりした体つきをしていた。念を入れた化粧をし、メリンス友禅の羽織を着、物を云うとき心持頭を左に曲げながら、何故か苦しそうに匂やかな二つの眉をひそめて声を出すのであった。
少し荒れた赤い小さな唇を見「さようでございますの」と云う含声をきいた時、さほ子は此娘をお前と呼ぶべきなのか、貴女と云うべきなのか、心を苦しめた。
「国は何処?」
彼女は、優しく前髪を傾けて答えた。
「越後でございます」
「東京には、其じゃあ、親類でもあるの?」
娘は、唇をすぼめ、悩ましそうに一寸肩をゆすった。
「――親戚はございませんですが……」
黒目がちの瞳で顔をじっと見られ、さほ子は娘の境遇を忽ち推察した。
「じゃあ、友達のところにいるの?」
「――はあ」
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