術作品はこの技術上の発見で一段と輝きを増した。
 ところで、他の婦人作家たちだ。
 レイスネルのように戦線にこそ立たなかったが、ソヴェト同盟の新社会建設の文化的事業の中で、一刻の猶予なく活動しているうちに、生活は充実し、見聞と観察とは深まり、小説を書かずにいられないような心持になって来た。
 ソヴェト同盟のこの時代は、一日が一世紀にもつっかう時代だった。日常生活における猛烈な旧いものと新しいものとの噛み合い、新しい社会力の勝利、困難な、然し英雄的な大衆の建設力などの強烈な印象は、これまで小説なんぞ書いたことのない者の心さえ掴んだ。マメにつけられた日記一冊が、これまで世界文学のどこにもなかった記録の一つとなり得た時代だった。
 セイフリナの短篇処女小説「パウルーシュキンの出世」が書かれた。相当評判がいい。続いて中篇小説「四つの頭」が『シベリアの火』というシベリア地方の指導的な文学雑誌に現れた。写実的な手法でセイフリナは自分が活動の間に理解し、見聞を蓄積した地方ソヴェト農村の階級的闘争を書き出した。
「十月」革命の当時はレーニングラード附近の新しい学校で図画の先生をやっていたフォルシュはそれから後、キエフ市へ行った。彼女はウクライナ共和国の国立出版所で、ロシア部の担当だった。国立出版所の机の前で働くかと思うと、「土曜労働《スボートニク》」でジャガ薯掘りをやりながら、フォルシュは四度キエフ市の政権が代るのを見た。反革命の白軍が南方ロシアの旧い美しい都市であるキエフを占領する。赤軍が逆襲して、市ソヴェトに赤旗が翻ったかと思うと、チェッコの侵入軍が、派手な制服の士官に引率されて襲撃して来る。
 赤旗をかくせ!
 党の政治部は書類を焼きすてて地下へもぐった。工場の門前にバリケードが築かれる。やって来るならやって来い! ボルシェビキの闘争力を見せてやるぞ! キエフ市はソヴェト第一の大炭坑区ドンバス地方に近い。しつこく「白」が最後に潰滅する迄つきまとった。
 フォルシュはそのはげしい革命の波にうたれながら、「ラビ」「居住者」など、彼女の代表作となったものを書いた。
 シャギニャーンの『文学日記』『自分の運命』『ソヴェト・アルメニア』等が出版される。
 党員となったアンナ・カラヴァーエ※[#濁点付き片仮名「ワ」、1−7−82]の生活はガラリとかわった。彼女が中央執行委員会の質問応答掛として毎日接触するのは、プロレタリア革命の下に新しい社会生活に入った勤労大衆だ。彼女はこの新しい経験から「熊使い」を書いた。一九二一年の新経済政策はカラヴァーエ※[#濁点付き片仮名「ワ」、1−7−82]に「岸」という小説を書かせている。カラヴァーエ※[#濁点付き片仮名「ワ」、1−7−82]の作品はどちらかというと事務的で、文章に性格がなく新しい味わいにとぼしい。が、日常の活動がきっちり党、大衆の建設力と結びついているため、主題が他のどの婦人作家よりも進展的だ。彼女はもちまえの頑丈な体でドシドシ前進するソヴェト同盟の社会情勢と並んで進み、前進する一つの社会的階程にあてて一つずつの作品を書く精力をもっている。
 例えばここに一人の労働婦人があって、ソヴェト権力確立とともに生産の中へ働くようになり、働くことによって次第に自身の文化を高め、政治的にもプロレタリアートの女として確《しっか》りした意識を持つように成長して来つつある。同じことがソヴェト同盟の婦人作家についても現れた。
 革命は彼女達を書斎から、教室からもっとひろい、もっと激しい社会主義社会建設の真只中へひき出した。婦人作家たちは、その中に全力的に生きることによって、目覚ましい作家活動を開始したのだ。
 ソヴェト同盟の新社会の焔は、経験のある男の作家たちに言葉で云えない程の若返りをさせた。同時に大衆の中から多くの新しいプロレタリア作家を立ち上らせた。
 バーベリが、短い強い文体で独特な手法を示しながら国内戦の豊富な大衆的経験を主題とする短篇を発表しはじめた。
 六十一歳のセラフィモヴィッチが、壮大な革命的叙事詩「鉄の流れ」を完成した。
 一ヵ月たった十ルーブリ(一ルーブルは一円)で田舎の小学教師をしていたこともあるニェヴェーロフが一九二〇年にはタシケントに行って、類の少い佳作「パンの町タシケント」を書いた。
 一九一八年の党員で、フルンゼと一緒に赤色戦線で働き、クバン駐在赤軍政治部長をやった若いドミトリ・アンドレーウィッチ・フールマノフは、ボルシェビキ作家の誇、「チャパーエフ」(日本訳、赤色親衛隊)、「反乱」などをわれわれに与えた。グラトコフの「セメント」、フセワロード・イワーノフの「装甲列車」、ファジェーエフの「壊滅」等、みんなこの前後に発表されたものだ。
 男の作家たちが、めいめいの傾向に相違はありながら、世界
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