ば、この巨大な主題を、唯物弁証法的にこなすこなしかたに、或いは主題の唯物弁証法的把握そのものに何かの不足があったことは明かだ。
これは非常に有益な、興味ある穿鑿《せんさく》だ。何故なら、中條百合子がこの間うち『改造』にソヴェト同盟の紹介小説「ズラかった信吉」を書き、未完だが、やはり唯物弁証法的方法の点で失敗している。筆者は、ソヴェト同盟の大建設が世界プロレタリアート・農民にとってどんな意義をもつものかを書くのに、目的の大衆性に適応した物語りの形式を選ばず、小説の形で、信吉という人物を、主題に対して非唯物弁証法的に出している。
五
周密な用意と研究を必要とすることだが、「転換時代」にあらわれている唯物弁証法的把握上の失敗は、先ずどこか機械的な点で目立つ。
書かれた点からだけ見ると作者は、こう考えたように見える。資本主義第三期の世界を書くのに、社会的に大きい事件ばっかり書くのは間違っている。あらゆる日常的な、些末なことがそれぞれみんな主題と関係している。又、積極的な面だけが重要ではない。消極的な部分も洩らされてはいけない、と。
酒井とその宿主の婆との衝突、エ
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