して株主となったのがもとの賀陽宮、いまの賀陽恒憲だったそうです。
 荒物店でもひらくなら十万円という金はもとの千円として何かの役にたつでしょう。けれども輪タク一台いくらすると思って? 田舎の輪タク屋がわたしにいったことがあります。こんなものが造るとなれば一台二万円はかかるんですから、どうしたって料金も高くついてしまいますと。十万円で輪タク五台ですよ。ところがね、記事によると山岸敬明という人は事業家なのです。この人は、犬養首相を射殺して禁固十年の判決をうけ、七年たった昭和十三年に仮出獄したそうです。それからまた不敬罪によって三年間未決にいたときに終戦となりました。その後、故郷の新潟県関山でもと陸軍の演習地であった四十町歩の土地の開墾をはじめ、製粉、製塩事業の関山農場をやっているのだそうです。四十町歩の陸軍演習地を海軍のなかでも、特別な政治テロリストであった山岸中尉が手に入れたということは、そこに諒解があったわけでしょう。この仕事に組織されたのは関山の中学や小学校の後輩二〇名だそうです。新聞記事は、これらの人びとを同志とかいています。いわゆる五・一五事件当時から山岸敬明と妻君のあや子という人の間には、新聞口調でいえば、灼熱のロマンスがひめられていたそうです。このあやさんが賀陽氏のいとこなのだそうです。
 だいたい生活能力のあたえられずに生きてきた皇族の今日の生活は、実際ひどいものであると思います。その生活能力のないという現実と、同時に日本の人びとの感情のなかにまだまぼろしをのこしている「宮様」のありがたさに対する利用価値とが、からみあって、いつも右翼の財力にひっかかっています。いつか平民になった皇族たちの職業しらべがでていましたが、ほとんど大部分が「何々の宮」という看板を貸して、かげの闇めいた儲けでやしなわれている状態でした。
 天皇制についての研究は、この際あらためて、わたしたちの重大な問題です。なぜなら、いまの憲法は、本極りのものではなくて、このごろ対日理事会で再審査されはじめています。日本の政府は狡猾で、新憲法発布のおまつりさわぎをしたりして、さも、いまの憲法がもうきまってしまったようにみせかけました。
 ところが、そうでないことは、おまつりの最中にだってわかっていたのです。天皇がたとえ言葉の上で「シムボル」だといわれたにしろ、シムボルというものはそれによって象徴
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