ような小道が斜に左へきれている。その奥に丸太小舎が一軒ある。例えばメー・デーの日、その丸木と丸木の間につめてある苔や泥もくずれたような丸木小舎を見ろ。入口の戸のわれ目に細長いうすよごれた赤い布がブラ下っている。赤旗のつもりだ。
 ピムキンを見つけようと思ったら、然しこういう彼の小舎へやって来たってだめだ。彼はいつも村の中、村ソヴェトのまわりをうろついている。或は村のどっかを歩いている何かの委員のまわりにくっついている。――
 その日は、途方もないいい天気だった。
 村ソヴェトの軒からポタポタ、ポタポタ雪解水が絶え間なく落ちてきたない泥をはねとばしている。日向の雪全体が春の暖気でうき上った。雪の底から流れる水は晴れ渡った空をうつしながら、足もとを走る。毛外套《シューバ》では汗が出るうららかさだ。
 ビリンスキー村の男女は、冬じゅうにのびた鬣《たてがみ》をうるさがる馬のような眼付で、まっさおな空を眺めたり、雨だれの音を聞いたりしながら、村ソヴェトの前へ列になっていた。集団農場加入登記日なのである。
 みんなあまり口をきかない。新しく来た集団農場書記が、入って左側の室でしきりに書式を埋めてい
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