る。その机の前まで列はつづき、椅子にかけている一人がすんで帽子をもったまま立ち上ると一二歩ずつ外の連中ものろのろ動く。
 もちろんこんな場合、何の役目をもっているはずないピムキン一人である。列のまわりを歩いたり、書記の机の横へ行って腰へ手をまわし、しかつめらしく書きぶりを見下したりしているのは。
 末っ子を外套の中へ入れて抱いた後家のマルーシャが列の中から、陽気な声でピムキンにいった。
 ――へい、爺さん! 何おっことしたかね? うろうろしないでいい加減列に立ちなね。
 ぼろぼろの山羊皮外套の前をはだけピムキンは横柄にぶっつける。
 ――お前の知ったことじゃねえ。集団農場は小物売店《アカフ》の塩漬胡瓜じゃねえだ。俺のためにゃ順番ぬきでいつでも場所を明けてあるんだ――判ったか。それが国家ちゅうもんだ!
 ――国家?……ふう! 気違い!
 油虫はどこの台所にだっているもんだ。気難かしいグレゴリーは、自分の番がきて椅子に坐ろうとしたとき、かさばったかっこうでわきに立ってるピムキンを虫けらみたいに手で押しのけた。
 ――邪魔すんな。
 ――ほほう! 魂の暗え土百姓《ムジーク》というとおりだ、お
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