前は――
――お前こそなんだ?
青年共産主義同盟員《コムソモーレツ》ニキータが、机のむこう側に立ち上った。
――同志《タワーリシチ》グレゴリー。時間を無駄にしてくれるな!
日が沈むと、早い春の気温はぐっと下り、雪解水の音がやんで、暗くなると一緒に泥濘が凍った。やっと登記の列が終った。書記がランプの下で紫インクのペンを置き、一服すいつけたところへ、ピムキンが、家へかえって来たような足どりで机の前へやって来た。
集団農場ソヴェト議長イグナート・イグナートウィッチが書類をしまいかけている。
――何用だね? 俺の爺さん。
――さあ、こんだ俺の名だ。元のパルチザン、集団農場さ入れねえことは、なかっぺ。
黒い皮の半外套に同じ帽子をかぶった集団農場中央からの男が、小声で、
――何者だね?
とイグナート・イグナートウィッチに訊いた。イグナート・イグナートウィッチは長い髯をしごきながら、
――知ってなさる通り……まだ村にゃあいろんな者がいる……国内戦は人間の体のいろんな場所に影響した。
――そりゃ本当だ。
ピムキンは、窮屈そうに肱をあげてルバーシカの裏ポケットから例の紙切れを引き
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