出しながらわきから口を入れた。
 ――俺の五枚目の肋骨にゃまだコルチャックの鉄砲玉が入っている。――そりゃだが、何でもねえ。玉あレーニンの骨さも入った。……これが俺の書類だ。
 中央からの男は指の先で、折目がすり切れタイプライターの紫インクがぼやけた書付をひろげて眺めた。書付はみんなで十枚あった。あるものは鉛筆の乱暴な走り書だ。あるものには、戦時共産主義時代の村委員《コミサール》の名が赤インクで書かれている。
 それらは証明している。ピムキンは或るとき小学校の小使だった。或るとき赤衛軍の食糧運搬夫だった。そして、或る時、ピムキンは赤のパルチザンでアルタイ附近で戦ったこともあったんだ。
 ――ふーむ。
 陰気な眼付になって中央からの男が、書付を元のように重ね、だまってピムキンの方へ押した。
 ――ちょっと……僕にも見せて貰えないか?
 疑わしげな顔つきでピムキンは鳥打帽をかぶって外套の襟をたてた若い男を見た。
 ――お前さん、どっからだね?
 若い男はもちろんだという声で答えた。
 ――町からだ。
 しつこい、同じ調子でピムキンがまたきいた。
 ――何する人だね?
 ――……書くんだ。わ
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