。まわりで、村じゅうの者が、犬まで後足を池のピシャピシャに踏み入れて上を見ていた。十字架は春の陽の下でひっくりかえって、ズルズル屋根をこけた。
そのとき隣村から来た青年共産主義同盟員女子《コムソモールカ》のイリンカが、
――そこ! そのまんまで!
ファインダーをのぞきながら盛んにその辺を歩きまわり、ピシとシャッターを動かして、
――|よし《ガトーワ》!
さっと村の群集に向って片手を振った。
「反宗教者《ベスボージュニキ》」にビリンスキー村農村通信員として、その事件の報告が二ヵ月後に掲載された。写真は出なかった。
コムソモール・ヤチェイカへやって来たイリンカは、いつもより一層赤い顔して、ほんのり若々しいわきがのにおいをさせながら、
――だけんど、私、ちゃんと書いてある通りにやったんだよう。
十五カペイキの「写真愛好者のために」というパンフレットと乾板とを、みんなにのぞかせた。
ピムキンは、ニキータの肩越しにすすでいぶされたように真黒なモヤモヤだけ浮いてる乾板を眺めた。そして、気持わるく黄色い年齢も何も分らず皺だらけな自分の顔のさきで、げんこをふりながら呻った。
――ほ
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