に、
 ――ピムキンなんかかまうな。
といった。
 ――気がふれてるんだ。
 ――……誰かあ、いってたぞ、ピムキンがパルチザンだったってのはつくりごとだ。ただ脱走して、森んなかへかくれて、兎うったり、人間うったりして生きてただけなんだって。
 ペーチャは、しかしもうアグーシャに答えず、テーブルのあいたところへ一枚の石版刷の絵をひろげた。アグーシャは、両肱つき腹を押しつけて、パイプをふかしている詰襟服の、髪の濃いスターリンの顔を眺めた。
 長靴をはいたまんまグレゴリーはペチカの下の床几に横んなっている。横んなったまま流し眼で絵を見た。
 ――そんなの、なんぼだ?
 ――三カペイキだ。
 ペーチャが、まいた画をもって、出かけようとした。
 ――どこさいく?
 ――「文盲打破《リクベス》」だ。
 村ソヴェトの建物とは反対の、小さい池のよこに、木造の辻堂みたいな教会があった。一九二六年の旧復活祭に、屋根のてっぺんの十字架へ繩がかけられ、村のピオニェールとコムソモールとが、笑いながら力を合わせて、
 一《ラズ》! 二《ドゥワ》!
 一《ラズ》! 二《ドゥワ》!
と、その綱を地面の上からひっぱった
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