と何の関係がある!
 ――でも、おらとこに何損するようなもんあっぺ。
 アグーシャは、心臓をわるくして、いつも蒼い頬っぺたを、うっすり赧らめながら熱心にいった。
 ――集団農場中央から来た男もいってるでねえか、一頭の牛と※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66、読みは「にわとり」、245−6]みてえなちっちゃこいもんなんぞは集団農場へ出さねえでいいって。うちに牛が三匹もいるじゃあるめえし……。
 ――だ、だ、ま、って、ろ! わかったか。
 グレゴリーは女房をなぐらなかったが、アグーシャは、亭主を疑い出した。
 或るひるすぎ青年共産主義同盟員《コムソモーレツ》ニキータを先にたてて、財産調べの委員三人が、裏庭の、枯れた向日葵《ひまわり》と素焼きの壺をひっかけた柵のむこうへ現われた時、アグーシャは、不安ないやな気分になって、思わず地面につばをはいて手の甲で口のはたを拭いた。
 委員たちと家の内外を歩き、話し、立ったなり何か書付を柱におしつけて、なめた鉛筆でそれにやっこらと自分の名を書いてる年上の亭主のかっこうを、アグーシャは疑わしげに遠くから眺めていた。
 先妻の息子のペーチャが夕暮、隣村の
前へ 次へ
全39ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング