女ははだしで、担い棒の両端へバケツをつけながら、勢いよく、
 ――こわいことなんか、あるもんで! 腐れ、腐れ! 二百五十ヤールの絹が何だ。おら絹三百ヤールより、耕地で働く手がもう四、五本欲しいわ。
 そして、白い、いい歯をキラキラさせて笑いながら、
 ――おいらの村のどっかでも、大方二ヤール位の絹は腐ってるべえ。
といった。
 アグーシャは、溜息をついて、ゆっくり大きい井戸の汲上げ車をまわした。そして黙っていた。アグーシャの亭主は、村が集団農場になるときまったとき、村ソヴェトの大会からかえっても口をきかなかった。
 アグーシャはサモワールをわかし、がんじょうな身体をした、グレゴリーの前へパンを出した。そして、一杯の熱い茶を受皿にあけて、吹き吹きだまって飲み終ってからいった。
 ――何、ぶっきりしてるんね。……お前さん不服かね。村あ集団農場んなんの……。
 グレゴリーは、錐のような視線で女房を見つめ、
 ――どこにおらの利益がある?
と短く髯の中からいった。
 ――だまってろ。
 アグーシャはしばらくして、
 ――でも、おらとこのペーチャはピオニェールでねえかよ。
といった。
 ――それ
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