早く!
 輪をあけた村の者たちに押しだされてペーチャが自分の家の入口の前に立ったら、そこの柱の根っこにアグーシャが後家マルーシャに身体を半分抱えられて腰かけている。
 マルーシャがペーチャを見上げて性急にいった。
 ――親父見なかったか?
 輪ん中から誰かいった。
 ――ペーチャ、しっかりしろ! 親父あお前とアグーシャおっぽって行っちまったぞ、帰って来るもんで、ガラスキーの伯父貴がおどしかけたんだ。
 道々ペーチャはそのことには感づいていた。まるで、ふるい[#「ふるい」に傍点]にかけられているように体じゅうガタガタ震えながら、真蒼なアグーシャが歯の間からつぶやいた。
 ――お前の親父あ行っちまったぞ。……でもそらあ、俺のつみじゃね。
 それから、
 ――俺、どうすりゃええかったのよ。お前の親父あ集団農場きらって、俺まで殴る。……けんど、俺どうしっぺえ、そげえに悪く集団農場については思えねえ……残っのあ俺のつみかよ。俺ガラスキーに身内はねえし、ここに俺の集団農場あるし……。
 ――心配するでね!
 ペーチャははっきり泣きもしないでふるえてばっかりいる哀れなアグーシャにいった。
 ――俺働
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