と麻袋をかついでいる。そして西日に向う熱そうなこわい大きい顔に苦しそうな汗が流れている。ペーチャはそれを見た。が、グレゴリーの方は、まるで人間がいるのにさえ目を止めない風である。地面見たまんま進んで来る――
 ペーチャは思わずそっと道ばたに一足どいた。ただごとでない。どこへ――どこへ※[#感嘆符疑問符、1−8−78]
 声がペーチャの胸から喉へこみあげたが、口が動かぬ。きのう、親父はいった。
 ――ふう! 俺にゃ土地がねえ。息子も俺にゃ用がねえ。……土地も息子も今じゃ国家のもんだ……
 ペーチャが、道ばたから動けないうちに、親父は汗をたらし、獣みたいな様子で近づき通りすぎ、一歩、一歩、遠く西日の中へ、ペーチャの来た方へ行く。
 ペーチャのむく毛の生えた唇の隅は泣く前みたいにふるえだした。

        六

 人だかりがしている。
 自分の家の前が人だかりだ。ペーチャは人だかりを遠くから見た時、再び唇の隅をふるわした。
 こっちにもよくない事が起っている。――ペーチャはノロノロ歩いて行った。
 ――ペーチャでねえか!
 ――そだ! 何のそのそしてけつかる。――オーイ! 早くこい! 
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