だ。
 グレゴリーが帰って来た時、ペーチャはペチカの下へついている床几で、毛布にくるまって眠っていた。
 ――眠ったふりしていた。
 大体托児所には人気があった。
 ――どげえなもんが出来あがるっぺ……イワノヴォ・ヴォズネセンスクには風呂場までついて、栓ねじると湯の出る托児所があるそうだで。
 ――南京虫にくわれねえだけでもハアちっこい者にゃ楽だよ。
 後家マルーシャは、笑いながらある日アグーシャにいった。
 ――アグーシャ、ききな! 昨日ピムキンの気違い、とてもいい羽根枕、托児所のためにって持って来たぞ。――どっからかっぱらって来たんか……見てな、きっと今にピムキンがあの枕かえせって来べえから……。
 耕地では、見渡す数露里の広さにあおあおと麦が伸びて、初夏の風がそこへ吹くとあたまを揃えまぶしく波うった。
 トラクターで耕され、播種機でまかれた麦の濃い育ち工合は馬鋤と手蒔でやった耕地と、一目で違いがわかる。
 村はずれの川へビリンスキーの者が水浴びに行く。土手のむこう側が原で、雑草まじりに薄紫の野菊や狐の尻尾が穂を出している。その先にガラスキー村の耕地がある。裸の胸を平手でたたきなが
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