うとしただけでねえか。
アグーシャのあごのところに紫色のあざができている。ペーチャは、苦々しげに、
――親父あ、決議んとき手あげなかったちゅうこった。
といった。
――なあペーチャ、お前ピオニェールだ。正直、俺さいってくれな。
しばらくしてアグーシャが、持ち前のしずかな思いこんだ調子でいった。
――俺間違ってるだべえか。俺にゃどうしてもソヴェト権力のええとこさ見える。だまされていたとは思えねえ。
ペーチャは我知らずアグーシャの腕をとって、やさしく、
――立ちな。アグーシャ。
と励ました。
――お前の方が本当だよ。親父は年とって、新しい社会が、俺らんところで出来てくのが、わかんねんだ。
無教育なアグーシャをペーチャは親父よりずっと親しく感じた。このごろ、親父はアグーシャとよくひどい喧嘩をやる。それもいつだって、ペーチャはいないときやるんだ。
――こねだ、小遣かせぎに荷馬車借り出してひいたら、事務所さ三割とられたって大ぼやきした、あんときもお前なぐったか?
ゆでた馬鈴薯をもって来てテーブルで食いながらペーチャがきいた。
――ああ。だけんど、あのときゃたんだ三つですん
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