いうな、許さねえ。わかったか。
 そとは星夜で、白樺や菩提樹の梢が、優しい春の若葉を夜気のなかに匂わしている。ペーチャは二三人の未組織の子供とニキータとで、村ソヴェトの横のベンチにかけていた。
 ――じゃ、間違えるな。あさっての三時から、ブガーノフの小舎へ集まるんだ。そして、みんなで塗るんだ。
 ――な、な、そのペンキってどんなもんさ。
 ――見たど、俺ら! 糊さ。
 ――どげえな色してる!
 ――はあ、とても真赤だど。
 ――ニキータ! ニキータ! 托児所真赤にすんか?
 ――え? 赤じゃね、白だ。……さあ、もう帰った! 帰った!
 ペーチャがしんがりで歩いていたら、一旦建物へ戻って行ったニキータが後から追いついた。そして、低い声で、
 ――お前《めえ》、見たか?
といった。
 ――何を……
 ――お前の親父、決議ん時手をあげなかったぞ。
 ――……アグーシャもか?
 ペーチャは、親父の後妻をいつも名だけで呼んだ。
 ――アグーシャはあげた。
 ニキータは、ウーンと胸をのばしてかぶっている小さい縁無し帽を手で額の後へずらかし、大きい息して、匂いの濃く柔かい夜気を吸いこんだ。
 ――親
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