せ。――どこに「俺のもん」があるよ! 「主人《ハジャイン》」の持ちものあどこにあるよ!
 ――大きい声すんな……その代り、俺ら、働くにゃひとの道具つかってるでねえか――あげな大きいトラクターお前に買えるかよ。フフフフフ。
 ――おしゃべり! ぷう! ソヴェト権力じゃ女が男と同等だそうだから、手前《てめえ》は手前ですきな、代議員にでもなりくされ! 掟と亭主は女をしばらねえんだ。
 アグーシャは、大きな眼でジッと暗い窓の方を眺め、片手で頬っぺたを押さえて坐っていたが、やがて悲しそうにいった。
 ――おら、お前が、とくがねえ、とくがねえってのがわかんねえよ。去年、おらが心臓でぶっ倒れたとき、医者にかけてくれたなあ誰かよ。お前じゃねえわ。集団農場だ。ブリーシャのとこだってもよ。十五のグリーシャ、年がら年じゅうブガーノフの耕地さぼいこくられて、聖母さまのお水のんで命つないでた。それが集団農場で、今二人で六十ルーブリあとってるべよ。
 グレゴリーは、いきなりグイと濃い髯の生えた顎をもちあげそこにのってた皿がおどったほどひどい力でテーブルを打った。
 ――だ・ま・れ! わかったか? 一言も、つべこべ
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