キンは言葉をかけようともしない。ワーシカがピューッと音をさせて鞭を振り、
 ――え、おい! ちっと陽気にやろうで!
といった。
 ワーシカとニーナが一抱えの乾草と手風琴《ガルモーシュカ》をとって来た。
 ニキータがあぐらをかいて、手風琴を鳴らした。ワーシカは口笛で合の手を入れ、ニーナが前歯の間でひまわりの種をわりながら、
  お婆さん、石鹸おつかいな。
  馬鹿こくな! お母の腹で石鹸つこうたかよう
  お爺さん、歯ブラシおつかいよ。
  うるさい孫め! その歯があるなら
  ク、苦労すやしめえ!
と唄うと、みんな笑った。
 ――ペーチャ、さ。
 てのひらんなかへニーナがひまわりの種をあけてくれた。
 焚火の焔は揺れ、そのたんびにニーナの派手な橙色のスカートが明るく近づいたり、また遠のいたりして見えた。ピムキンは焚火のあっちで、今腹這いになっている。

        四

 集団農場ソヴェト大会で、ピムキンが、
 ――同志《タワーリシチ》、議長! それは九十二パーセントではねえ、九十二パーセント二分だ。
と、第一列から教えるように播種面積報告の訂正をやった。怒ったように誰かが、
 ―
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