顔つきで高いところから下りて、イグナート・イグナートウィッチと丁寧に、心をこめて握手したとき、若いものは思わずウラーと叫んだ。婆さんたちは、せかせか胸の前で十字をきって涙を浮かべた。
 樅の葉っぱで飾った村ソヴェトの前でイグナート・イグナートウィッチは二人の技師その他と立って演説した。
 ――さて――機械が来た。機械と一緒にわれわれソヴェト農民の新しい事業がはじまるんだ。機械は、わかってるだべ、お前のもんでも、俺がもんでもねえ。われわれ集団農場全員《コルホーズニキ》のもんだ。――つまり……ソヴェト農民全体のもんなんだ!
 ピムキンは、気違い犬みたいに今日は特別落付きない。イグナート・イグナートウィッチの足許へひっついて群集に向って立っている。彼は、イグナートの演説のきれめきれめに頭をふりながらいった。
 ――百姓《ムジーク》も会得する時機だ。ハア。
 青年共産主義同盟員《コムソモーレツ》ニキータも、髪の毛の生え際まで赧くなって野天で、トラクターのわきで演説した。
 ――子供《レビャータ》たち! わかるだろ。機械は新しい生産の武器だ。われわれプロレタリアートの階級の武器だ! 武器をお前ら
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