委しくここに触れることは私の力にも及ばないことであるが、運動全体が非常に急速に高まり、非常に急速に退いたことは、上述の集団生活が人間性をより強固なものに陶冶する為に必要な条件と時間とを与えなかったように見える。強い中心的な磁力が失われたらば、それに吸いつけられていた夥しい人々が自身の生存からも中心力を失い、生活的に低い所へ落ちざるを得なかった。この場合、運動の歴史の若いことは各個人に複雑に作用して、中心力を失った人々はそれを持たなかった以前よりも一個の人間としてましに成っているものとして残されず、却って卑俗なもの、旧套なものの中に自分の重みで深く落ちこんだようなところさえ見られる。これらのことが心理的な陰の力となって、現今プロレタリア文学作品と称されるものの中に、階級の方向と人間性とを切り離して、しかも主観的に、対立的にじめじめと描く一つの傾向を導き出しているのである。さほど遠い過去でないある時期には、プロレタリア作家が人間らしく、正直になるということは取りも直さず、社会の全体性と切り離され、対立的に見られる一俗人としての弱さ、自己撞着などを、何故それが彼の中にあるかという真剣な、真に
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