部の若い人々は全く山村のようにくよくよしずにさりとて現状に抗《あらが》わず、僅かに自分の時間でせめては本だけでも読んだりして雨宿りでもしているように、現在の状態が通り過ぎることを傍観的に待っている。そのようにして「やがての時代までも健康に生きのびる――その落ちつき」を持った人々に向って、私たちは果して皮肉に陥らずにその健在を祝し得るであろうか。
 読者は本年新年号の『改造』に載っていた河合栄治郎氏の「教育者に寄するの言」という論文を記憶しておられるであろうか。この論文で河合氏は進歩的な一人の教授としての立場から、現代若いインテリゲンツィアとしての学生の気質を詳細に観察して否定的な特徴の主なものとして五つの傾向を挙げている。その一つに、環境の影響に対する受動性と責任転嫁の傾向を挙げている。「希望館」を読み終って私の心に河合氏の論文中の数ヵ所が思い浮んだことは単なる偶然ではないと思う。山村は環境に対して受動的立場を取っている自身の態度を、客観的に批判することの出来ない人物である。社会的現実と個人との関係に於て、環境が人間を作るとだけ一面から観る態度を、若しそれがマルクス主義的な観方の応用で
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