あるというならば、誤りも甚しいものなのではなかろうか。環境は人間を作る。しかし人間はまた環境を自分から作ってゆくものである。生活の達人たちは皆この原理を体得した人々である。河合栄治郎氏が、氏としての熱誠を傾けたこの論文の中で、若き時代に健全な人間性を取り戻すためには、従来の意味での形而上学的の理想主義の人生観を彼等の中に確立させてやらねばならないと主張しておられる。「希望館」の山村がそれに対する闘いは全く放棄している非人間的な生活の現実から眼を離して夜は遠くギリシャの哲学の中にプラトーやソクラテスなどと遊んでいるその姿は、河合氏の形而上学的な人格完成の翹望の声を、間接ながら思い浮ばせた。河合氏は、人格は各人の精神的努力に俟《ま》つほかなく、その成長を可能ならしめるためには社会制度をあるべきものたらしめることが必要であり、人格成長は必然に社会改革への情熱を伴うであろうと言っている。そして理想主義者は常に社会改革者であらねばならないと言いつつ、氏は特に高等教育が「学をそれ自体の為に愛するものの為のみ」に解放されるべきことを主張している。この間に氏の学者としての歴史性を示す微妙なギャップと飛
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