いう言葉そのものが一定の規準と行動との関係に於て成立つ言葉である。「希望館」の作者によって言われている強靭な意志というのは、何故にお経を読まされること、阿諛《あゆ》を強いられる境遇に落ちつくことだけを内容とし現代の可能としているのであろう。強靭な意志というのは、日常の現実生活は全く受動的な条件で、最低のところまで引き下がって暮し、インテリゲンツィアの要求として夜は屑屋の車を片づけてギリシャ哲学の本を読んでいる、そのような実際生活上の分裂と薄弱さに対して鈍感になるということを意味するのであるならば、この言葉は作者によって新しい内容を附せられたことになる。山村が、屑屋は只のあり来りどおりの屑屋としてやっている。そのように、政治上の運動をやめて、小説をかいているこの作者は、小説書きとして小説を書いている。その職業の中でその職業に発展的な内容と方向とを附け加えようとする努力こそ、階級人の強靭な意志と称されるに足るものであると考える健全な読者は、この「希望館」の作者の今日に向っての態度に対して数々の疑問を抱くことを余儀なくされるのである。
 プロレタリア文学で、所謂特等席の誤った観念が正され始め
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