があり、作者は同じような破局で、血は流さぬながら物語りを終っている。
「希望館」で作者が支持的に描いているタイプは、仙三の潔癖に反対し「良心で現在何かが解決出来るかい?」「たとえお経を読まされてもだ、それに平然と堪えて居られるような、そんな強靭な意志こそ必要なんだ。くよくよしないでさ、神経衰弱にならないでさ、――そしてやがての時代まで、健康に生きのびる――その落ちつきこそ今大いに必要なんじゃないか」と言って「希望館」で坊主の代理をも勤め、屑屋をしながら夜はギリシャ哲学の本を読んでいるという山村という男である。山村は仙三が江沼を打殺して人に引かれていく姿を見ながら「馬鹿な奴だ。だからそんな良心なんか捨てちまえと言ったのに……」と泣けて泣けて仕様がなかった。これが「希望館」の最後の言葉である。
 読者は今日の現実の中で、抽象的な良心[#「良心」に傍点]だけで、何ものも解決されないことは知っている。何時、どのような時代にでも、左翼の運動が昂揚している最中でも、良心だけで解決された何ものも在ったことはなかった。良心はそれが良心であるのならば、些細なことにでもそれにふさわしい行動を生んだ。良心と
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