仕事をしてゆくにあたって、これらの人々は自分の作家としての活動に、過去の癖から妙な過小評価を持って対している。はっきりした言葉にならぬまでも、文学の仕事を他の政治的な仕事と比べて機械的に下位に置かれた仕事の感じを抱いていないとは決して言えないと思う。今日に於て、自分の最上の努力、最上の献身をもって従事すべき仕事としての自覚、誠実が不足している。さもなければ、文学的には努力のこめられていない安易な作品を、ただ題材が勤労大衆の生活面に触れているというだけの現象性で、とりまとめてどうして安んじていることが出来よう。
 加賀耿二氏の「希望館」の主人公仙三は、所謂良心的であるが故に神経質であり、神経質であるから良心的であるかのように描かれている。この神経質で受動的に敏感な男が最後の破局として突発的殺傷をすることは前に述べたが、私としてはこの作者が所謂良心的という人間を描く時に、多くこういうタイプの弱い人間をその面でだけ取り上げて来ていることに或る注目を引かれる。この作者にとって良心的なもののアナーキスティックな突発的行動は仙三が始めてではない。かつて小学校教師の生活を描いた「幼き合唱」という小説
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