ヒューマニズムの諸相
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)萎靡《いび》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)自身が提唱した日本的なるもの[#「日本的なるもの」に傍点]の
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 日本にヒューマニズムのことが言われはじめたのは、この一二年来のことであり、主としてフランスの今日の文学を支配している活動的なヒューマニズムの影響を受けたものであった。一九三二年以来日本の社会的事情は急激に変化して、プロレタリア文学は退潮を余儀なくされ、その背後の社会的な力は同時にブルジョア文学をも著しく萎靡《いび》させた。それに反撥する要求として、一部の作家から文学に於ける能動的精神ということが言われ初めた。
 この能動精神は、当時文学の置かれていた所謂《いわゆる》文壇的雰囲気の狭さ、無気力さ、非行動性に満足しない感情、即ちこの人生と文学とに対してより積極的な、能動的な人間性の発露を目標としたのであったが、この能動的精神の提唱者たちは、自身の提唱を一つの実際的な生活的、文学的潮流となし得るまでに具体的な方向を持っていなかった。漫然と能動というこ
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